「『ボーカロイド音楽の世界 2018』刊行記念トークイベント」レポート(備忘録) | G.C.M Records

「『ボーカロイド音楽の世界 2018』刊行記念トークイベント」レポート(備忘録)

ボーカロイド音楽の世界2018』刊行記念トークイベント – TwiPla
https://twipla.jp/events/381589

しまさんが先のM3-2019春にて刊行した、ボカロ評論の (今年は) 同人誌
『ボーカロイド音楽の世界2018』
その刊行記念トークイベントに参加してきました。

ロフトでのイベントということで、テーブルで飲食しながら会話を聞けます。
お酒も飲めます (私はレッドブルでしたが)
出演者も飲食をしながらラフな感じで進行していきました。

大阪で行われた去年のイベントでは出演者の側でしたが、
今年は単なる一参加者なので気が楽でした。

興味深いお話を色々伺うことができましたので、
その一部をメモ書きからご紹介したいと思います。

トークイベント概要

会場:LOFT9 Shibuya
日時:2019年5月17日(金)19:00~22:00
登壇者:(観客席から見て左側から)しまさん平田義久さんヒッキーP瀬名航さん
ゲスト登壇者:朝P
一般参加者:大体20~30名くらい

自己紹介・導入

Q.なぜこのシリーズ(ボーカロイド音楽の世界)を作った?
しまさん:>誰も作らないから<

【曲】Route/imie(osobaコンテストグランプリ曲)

人とボカロが一緒に歌う話
(2007年からあったけど、一般的に認識されてきたのは
2016年以降のピノキオピーや、みきとPの「ロキ」などが大きい、といった話)

その話の流れからの
【曲】 ミッドナイト・プール/ねこむら

平田さんが自分で歌わない理由について、といった話から
ボカロと人の声の話に展開

ヒッキーP:
ボカロの性能・技術的にはまだ人間ほどにはできることが多くないので
(だからこそボカロの声が好きだという人も多いが)
ボカロ声に興味ない層が知らないボカロ曲を能動的に探す…という時代にはまだなっていない。
しかし、今後の技術しだいではあり得る

瀬名さん:
さらに時代が進むと人間もボカロもフラットに聴かれるようになる

平田さん:
いや、10代・20代はすでにフラットでは

ヒッキーP:
若い人の思考としては「ボカロの声が苦手」な人も「ボカロ曲への偏見」は無いという印象。

単にボカロの声がボーカル、歌声として好きか好きじゃないか

しまさん:
例えば須田景凪さんやEveさんのボカロ曲は「ボカロ曲」とはあまり認識されていない(「須田さん、Eveさんの曲」である)のではないかという考察

その他、「ボーカルによって『歌手(誰々の歌)』が認識されるという、かつての常識が変わりつつある」
「楽曲の作者としてもボカロ活動を『アーティストの別名義」くらいの感覚でやっている人もいるかも」
みたいな話もありました。

瀬名航さんのコーナー

【曲】浮遊/瀬名航

平田さんが瀬名さんに影響を受けている話(本名っぽい名義とかも)

Q.なぜしまさんは瀬名さんに本の巻頭インタビューをした?
しまさん:瀬名さんはボカロ曲を作りつつ人間に曲提供する作家業もしているので、
そのことについて聞きたかった

瀬名さん:
歌い手のCDに楽曲を提供したのがきっかけで楽曲提供の活動を行うことになった。
今はアイドルらへの楽曲提供が仕事になっている。

ボカロ曲に関しては「自分が歌いたくない」が大前提で、
「路上で歌うシンガーソングライター」と「僕がボカロで曲を作っていること」は自分にとっては同義。
楽曲提供と、ボカロ曲作りは両方いい影響を与え合っている。

瀬名さんが楽曲提供しているアイドル(tipToe.)のプロデューサー:
自分がやりたい音楽性に近かったことがきっかけで声をかけた。
直接静岡まで会いに行ってさわやかを食べた。

【曲】夢日和/tipToe.
※メンバーは3年で卒業するのが原則だそうです。初期メンバーはいま2年半くらい

~休憩~

平田義久さんのコーナー

本に寄稿した「ボーカロイドに感情はいらない」の話

平田さん:
趣旨としては
「ボカロの声と遭遇したときに拒否反応示す人は一定数いて、
 そういう人は『だってボカロの声には感情が無いじゃん』って言いがちだけど、
 むしろ感情が無いからこそいいんだよ!」
というニュアンスで書いたつもりです。

劇作家の平田オリザ氏の「俳優に感情はいらない」が言葉の元ネタ
※平田義久さんと血縁関係はありません

【動画】TPAM in Yokohama 2011: Robot-Human Theatre
【動画】TPAM in Yokohama 2011: Android-Human Theatre

※人間とロボットが共演する、平田オリザ氏演出の演劇

ロボット研究者の方が
「究極に人間らしいロボットって、人間と何が違うのか?」という哲学をしており、
劇作家で普段人間を見ている平田オリザ氏の知恵を借りてコラボが実現した。

平田オリザ氏は俳優が個人で抱いている感情(=「登場人物の気持ちを考えて」など)で演技をさせることをせず、
「私が言うとおりに俳優を動かす」(=俳優に感情はいらない)ことを演出の信条としてきた。
「0.2秒遅くして」とか「○cm余計に動いて」とか。
徹底したリアリズムによる会話劇

平田さん:
・演者の気持ちよさが入ると、ノイズになってしまう。
・演者の感情ではなく、「見た人の印象が全て」である。
→この考え方は、ボカロ曲を作る行為に似ているのではないか?

【曲】Late Night/平田義久
※生演奏っぽいけどギター以外は打ち込み。しかしニコ動ではオケを誉める声が多数。

打ち込み派vs生演奏派の話も共通するものがある。
「リアルっぽい歌(演奏)をしたいならなぜ歌い手(演奏者)に頼まないのか」問題

平田さん
「人間に歌ってもらうのは思っているよりも大変ですよ」
人間関係、機材の問題、リテイクを頼む、曲が完成してないと…etc

最終的に全部自分でやるのがクオリティとしては高くなる

ヒッキーP:
私は生音とはかけ離れた音でどれだけできるかを考えていましたからね…

【曲】できるできない万里の長城/ヒッキーP

複数のアプローチがある
・打ち込みならではの自由にできるアプローチ(ドラムで腕三本とか)
・打ち込みで、あたかも生演奏をしているかのような雰囲気を出す

平田さんの結論としては「人間もボーカロイドも生演奏にも感情もいらない」

平田さん:
そもそも「実在」とは何なのか?
初音ミクも<人間の某歌手>も実物を見たことがないから僕にとっては同じレベルだし、
何ならミクのほうが知ってるだけ実在感がある

ピコ太郎「PPAP」のローランドTR-808カウベルの話(チープなサウンドだからこそ受け入れられた)

~休憩~

ゲスト朝P(ボーカロイドとVTuberの話)

自己紹介
・朝日新聞のミク廃記者
・2008年に(たぶん全国紙では初の)記事を出した話
・2011年のMIKUNOPOLISに誌面2ページ使った話など

しまさん:
キズナアイが初音ミクを「初音ミク先輩」と呼ぶ話が気になっていたので、
今回イベントの一参加者であった朝Pを捕まえてトークさせることにした

朝P:
まずは前提となる話から。
キズナアイはブレイクに1年半くらいかかって、その後四天王が現れて、
個人のVTuberが現れて今に至る

テクノロジーの一般化(何千万とかかったものが数十万でできるように)

・ビジュアル面
ミライアカリは原画がKEIさんだったり
輝夜月のデザインの人(Mika Pikazoさん)はマジミラ2018のミクもデザインしていたり
ミクからビジュアル的な流れを引き継いでいるVTuberは多い。
また、個人VTuberの隆盛はMMDの普及によるところも大きい

・リアルYouTuberからの流れ
コンテンツとしては、トーク・対談系はテレビからの流れだと思うが、それ以外を考えると
ゲーム実況、歌ってみた、踊ってみた(ニコ動からの流れだし、ボカロにも近しい文化)が多いよねという話

・キズナアイは自分を「VTuber」と名乗ることはない。
(「バーチャルYouTuber」もしくはYouTube以外の活躍が増えた昨今は「バーチャルタレント」と名乗っている)
「バーチャルYouTuber」と「VTuber」は似て非なるものだというのが朝Pの考え

(「バーチャル」と「YouTubeで活動する人」が切り離せるか否かという話だと筆者は読みました)

他にVRソーシャルだけでやっている人とかもいる

朝P:
・一般的に「創作や表現というものは、人格を仮託する面を必ず持っている」という話
(例:女の子の曲作る時って女の子の気持ちになるよね)

・一方で、表現と人格が完全に切り離されているのがVTuber

・初音ミクはその中間点(人格は仮託してはいるけどボカロPという存在はいる)で、
ミクはボカロPの魂を借りている、ボカロPはボカロに魂を宿す。タグ「魂実装済み」

・ボカロ文化のこの10年の積み重ねがVTuberの受け入れられる下地を作ったので、
キズナアイは「初音ミク先輩」と尊敬を込めて呼んでいるのではないか

その話に対し以下の質問が登壇者から出されて盛り上がっていた。

ヒッキーP:
さっきの瀬名さんの話題とは対照的な話では?
(最近はボーカロイドに仮託していない人が増えていると思う)

瀬名さん:
コスプレイヤーって仮託だと思うので、そういう意味では文化的にも近いのでは?

朝P:
「可愛い物はおっさんが作っている」からの
「#私かわいい」の話、
コスプレイヤーはAR的でVTuberはVR的だという話、
トランスジェンダーとVRchatをめぐるエピソードなど。

ヒッキーPのコーナー

ニコニコ動画とYouTubeの話

ヒッキーP:
ボカロ曲の広がりの話
最近はYouTubeでしかボカロ曲聴かないという人も増えたので、
これまでの「ニコニコ動画のみで完結」という考えは認識を改める必要があるかもしれない


そもそも2007年8月31日までは、事務所にも所属していない素人の自分の楽曲が
聴かれるはずなんてないということが常識であった。
それがミクの登場でビッグバンが起こった。
「どこかの誰かの楽曲が聴かれる」「こんな曲が日本にあったのか!という感動」
というパワーでボカロシーンが形成された。

その場はニコ動だった。
当時からYouTubeもあるし他の動画サイトもあったけど…
荒削りな曲の輝きがコメント機能とうまくマッチして、コミュニケーションツールとして機能した。
YouTubeはニコ動から転載されたものが外に出る場所だった。

その状況が、ここ数年で大きく変わってきた。

平田さん:Twitterでアンケートを取ったらニコ動7:YouTube3だった
瀬名さん:同じく取った。ニコ動4-5:YouTube2-3、両方2

ヒッキーP:
ニコ動は、知らない人の新曲を探せる場所
YouTubeは、有名な人の曲を聴ける場所

しまさん:
関連動画など、YouTubeの利便性はすごい

ヒッキーP:
ニコ動は2018年までアカウント無しで見られなかったので、

YouTubeに比べるとハードルが高い一面もある(あった)

2018年以降にブレイクした人9名を調べたが、5名はYouTubeのほうが再生数が伸びていた。

その中で傘村トータさんにヒッキーPがインタビューして、
どのような過程でニコ動よりYouTubeが伸びるようになったかを語っていただいた。
詳しくは本を読んだりヒッキーPの生放送を見てね!

【曲】僕が夢を捨てて大人になるまで/傘村トータ

しまさん:
しんみりするエンディング曲になった

ヒッキーP:
直接的でありシニカルでもある歌詞の攻撃力と、普遍的な楽曲の魅力が大きなパワーを呼んでいる。
(楽曲にパワーがあるゆえに様々な反響もある)

感想

pomeraを持ち込んでいざメモを取り始めたら話が面白いので止まらなくなり、
脳を休められない感じで、トークの3時間はあっという間に経過していきました。

去年のときにも思ったのですが、いざ議論を深めようとすると
2~3時間という時間は圧倒的に足りないですね!

特にYouTubeに関するお話は個人的にも色々思うところがあり
(投稿を続けてきて、手元にかなり長い期間のアクセス解析データがあるのでブログ記事にしたい…)
より突き詰めてほしかったのですが、
時間が押していたために概要の紹介に留まったのは惜しかったですね。

とはいえ、こうして他の人のディープなボカロ観を生で聞ける機会は貴重ですので
とても楽しめました。

ボーカロイド音楽の世界2018 | Stripeless
https://stripelesslabel.com/book/wvm2018

ついでに私が寄稿した2017年版も貼っておきます。

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著者「アンメルツP」について

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