2019年上半期に足を運んだ美術展・デザイン展 印象深い13個まとめ
目次
はじめに
昨年2018年あたりから、私アンメルツPは東京や千葉などを中心に
美術展やデザイン展などを見つけて積極的に見に行くようにしています。
お堅い目的としては勉強のためですね。
良い表現者・プロデューサーになるためには、
他の人の作品を鑑賞してインプットしていくことが大事だと思っています。
あと、どうしてもボカロPのようなパソコンの前での創作活動をやっていると
家に引きこもって作業することが多いので、
気分転換と運動を兼ねて、強引に外に出て別の世界を見るという意味もあります。
どの美術展やデザイン展も印象に残る何かがあり、大変刺激になるものです。
ここではTwitter につぶやいた感想にちょっとだけプラスアルファしたものを
13個ほどまとめております。
最近の美術展では写真撮影が可能なものも結構ありますので、
そういったものに関しては写真を掲載しております。
そうでないものはチラシなどを撮影して掲載しました。
ぜひご覧ください。
※「★」印の写真は、「クリエイティブ・コモンズ表示・非営利・改変禁止4.0 国際」ライセンスで
ライセンスされています。
オープン・スペース2018(NTTインターコミュニケーション・センター)
ICC | オープン・スペース 2018 イン・トランジション
音や映像作品による挑戦的かつ実験的な作品を展示している、
いわゆるメディアアート展です。
AIやキネクトなどの技術やら映像展示、自らが作品の一部になる展示など。
インパクトが大きかったのは、音の反響がない部屋「無響室」で
無数の電子音を聴く展示です。
平衡感覚を失いそうな感覚にとらわれ、気が狂いそうになりました。
こちらは家電製品(ドライヤーや電子レンジなど)が稼働音を鳴らす動画をいくつか並べて、
まるで家電同士が演奏して新しいアンサンブルを作ってるかのように表現している作品です。
基本的には機械的なノイズの集合ですが、
その中に不思議な調和を奏でることもあるというものです。
イン・ア・ゲームスケープ (NTTインターコミュニケーション・センター)
ICC | イン・ア・ゲームスケープ ヴィデオ・ゲームの風景,リアリティ,物語,自我
「オープン・スペース2018」と同会場での開催で同日に行きました。
「ゲームの展示会」と言うと、以下は結構見かけるとは思います。
・ヒットした歴代のゲームを並べる
・特定の作品の世界観を表す展示会
しかしこの展示会はちょっと変わっていて、
結果的にゲームになってるアート作品と言いますか、
ゲームを手段として使っているアートを展示したものになっています。
インタラクティブ(双方向)なことが特徴の、
これもメディアアートの一種といっていいんでしょうね。
シュールで哲学的なものが多くて色々刺激になりました。
こちらは、とあるゲームの実際のマップ上で車がひたすら回転しているだけの光景を
4画面で映している、ただそれだけのシュールな展示です。
こちらは画面に表示されているコインをマウスで動かして投入口に入れるゲームです。
入れるとチャリンという音がしてすぐに次のコインが現れます。それだけです。
これまでコインが入れられてきた回数が表示されています。
テーマとしては「人間の欲深さを表現」とかそんな感じらしいです。
他に印象深かったのは、入国管理ゲームですね。
これは『Papers, Please』という名前で実際にSteam等で遊ぶことができます。
架空の共産国で入国審査官になるインディーゲーム『Papers, Please』で小役人の悲哀を味わう – ファミ通.com
YouTubeには実況動画もいくつか上がっています。
怪しい人をパスポートの情報などを基に水際で止めるというゲームですが、
もしテロリストを通すと大変なことになってしまうし、
無実の人を帰しても減給になり家族が食って行けずに飢え死にする。
「ボタンを押すことによる責任感」と言いますか、
「自分の行動ひとつで人が死ぬんだぞ」というのをリアルに味わえるとても興味深い作品でした。
AIと共創するグラフィックデザイン(東京ミッドタウン)
Tokyo Midtown Design Hub | 東京ミッドタウン・デザインハブ | AIと共創するグラフィックデザイン
テーマが個人的に大変興味深かったので行ってみました。
無料展示とのことで、展示物がそう多くはないのですが楽しませていただきました。
ヤマハのピアノが置かれており、自動作曲した音楽を無人のまま演奏していました。
こちらは既存のフォントを組み合わせて新しいフォントを自動的に作ろうという試みです。
五枚のディスプレイによる展示で、かなりの勢いで自動生成されていきます。
あとは「新聞に掲載されている四コマ漫画を何十年分と読み込ませておき、
それをコラージュして新しいオチの漫画を作ろう」という試みの展示がありました。
ニュースMADみたいな感じですね。
これの難しい所はやはり「人間が笑えるようなオチにする」という理論の構築ですが、
展示はまだ微妙な段階で、こういう組み合わせもあるんだな…くらいの印象でした。
もっと突き詰めていけばすごい面白くなっていくかもしれませんが。
北斎展 HOKUSAI UPDATED(森アーツセンターギャラリー)
新・北斎展 HOKUSAI UPDATED | 森アーツセンターギャラリー – MORI ARTS CENTER GALLERY
代表作だけでなく初期の作品から「画狂老人卍」の作品まで
年代順に網羅的に展示していた、葛飾北斎の浮世絵展です。
確か写楽はものすごい短期間な活動しかしてなかったと思うんですけど、
北斎は全く逆のパターンで、一生かけて名義と共にその画風を変えつつ
どんどん貪欲に進化を遂げてきたんだなと思いました。
最晩年の作品は凄味に圧倒され、これが80年近く生きた集大成だというのを物語っていました。
初期の作品から年代順に並べるのはよくある方法とは思うんですけれども、
それを「UPDATED」というテーマでうまく見せた展示会だと思います 。
奇想の系譜展(東京都美術館)
もともと『奇想の系譜』という本を書いた美術史を研究している家がいらして、
その方が本のテーマとして選んだ人達の作品を集めた企画です。
日本画や浮世絵の中でも尖った作風が並んでおり、
全体的にダイナミックな作品が多いという印象でした。
個人的には、中盤に展示されていた
一寸(3cm)四方に大勢の人物を描いた絵がとてもインパクト大きかったです。
六本木クロッシング2019展(森美術館)
森美術館15周年記念展 六本木クロッシング2019展:つないでみる | 森美術館 – MORI ART MUSEUM
色々挑戦的な作品が揃った、いわゆる現代アート展です。
こちらは天井からぶら下げられている明かり自体が作品だそうです。
また遠景なので少しわかりにくいですが、右の柱も実は作品でして、
この美術館の柱に鎖をぐるぐると巻きつけたものが作品になっている。
で、その中に肉親が使ってたネックレスも入ってるという話です。
この作品は美術館の壁を削って表現した作品だそうです。
また写真にはありませんが、
「画像をピクセル単位に分解してパラメーターをいじって波のようにした映像展示」が
不思議といつまでも見入っていたくなるものでした。
あと「色んなシチュエーションで電話のベルが鳴り続ける不穏な映像」も良かったです。
この森美術館は、 色々展示に工夫があると言いますか
そもそも現代美術などの展示を前提として空間が構築されているフシがあり、
とても魅力を感じます。
3ヶ月に1回ぐらいの割合で展示替えがされるので、
つい最近、森美術館の年間パスポートを取りました。
年間4回見に行けば十分元が取れて、それ以外にも
レストランは10%割引、さらに展望台は行き放題になるという結構お得な年パスです。
「気分転換したいときに六本木ヒルズに登る」というセレブみを感じる体験を
年間6,000円(税込)で味わえます。
niconicoのプレミアム会員より安い!
今後ちょっと日常が楽しくなる気がします。
年間パスポート | 森美術館 – MORI ART MUSEUM
カミワザ!驚異の立体切り絵展(東京ドームシティ)
カミワザ!-驚異の立体切り絵展-【終了】 | Gallery AaMo | 東京ドームシティ
SouMa氏による立体切り絵作品の展示会。
こちらも撮影が可能となっておりました。
これに関しては私が何か言うよりは画像を見てもらった方が早いです。
単純に驚きしかありませんでしたね。
人間の髪の毛や羽といった繊細なモチーフを、一枚の紙から切り出して作っています。
火で少し炙って色や質感を出したり、紙の薄さで濃淡を出したりなどの
細やかな技術が使われていて本当に口が開きっぱなしの個展でした。
河鍋暁斎 その手に描けぬものなし (サントリー美術館)
河鍋暁斎氏は、風刺画が特に有名な江戸〜明治時代の絵師さんです。
作風の特徴としては、コミカルな作品や風刺画が多いです。
浮世絵って市民文化だったわけですが、今の漫画につながるような楽しいものや
動物を描いたイラストもたくさんありました。
「鷲に追われる風神図」は面白かったです。
あと展示スタイルとして、前半に模写を大量に見せてから
どのようにオリジナルの発想を広げて個性豊かな作品に繋がったっていう流れが印象的でした。
どんな神クリエイターも最初は真似事から始まると思ってて、
イラストレーターなら模写やトレースから始めたりとか、
作曲家なら耳コピから初めてオリジナル曲へ行くみたいな流れがあります。
その流れを表現した展示に共感を覚えました。
メアリー・エインズワース浮世絵コレクション (千葉市美術館)
オーバリン大学 アレン・メモリアル美術館所蔵 メアリー・エインズワース浮世絵コレクション
アメリカのコレクター所蔵の浮世絵が日本に里帰りするというコンセプトの展示会です。
浮世絵を初期から末期まで年代別に一挙展示しており、
順を追って展示物があったのが私のような素人には大変わかりやすかったです。
こうして並べて見ると、後半に出てくる葛飾北斎の富嶽三十六景のような構図の
突然変異のように現れた斬新さが目立ちます。
ブラティスラヴァ世界絵本原画展(千葉市美術館)
ブラティスラヴァ世界絵本原画展 BIBで出会う絵本のいま-千葉市美術館
世界的な絵本コンテストに入賞した作品の原画を展示。
絵本自体もその場でサンプルを読むことができました。
また、メイキング資料も多数展示されており実に興味深かったです。
入賞作はヨーロッパや中東などの地域の本が多かったのですが、
文字がわからなくても絵を辿れば大体何を言おうとしてるのかが思ったよりも分かりました。
絵本って、子供にもわかりやすいイラストと文字で物語を伝えるという点では
簡単なようでものすごく作るのが難しいメディアだと思います。
「子供でもわかる」=「万人がわかる」ですからね。
ここに並んでいた受賞作は、シンプルに物事の本質を伝えるという
絵本の力を感じる作品が多くてけっこう衝撃を受けました。
絵本に対する自分のステレオタイプなイメージが変わった展示会です。
後半には日本代表の作品展示もありました。
特に印象に残ったのは、ヨシタケシンスケ氏の「このあとどうしちゃおう」です。
人の死生観にわりとダイレクトに切り込みながらも、
それを全然深刻に感じさせないポップなイラストと文字。
しかし、子供はもちろん大人にも深く考えさせるようなそんな一作でした。
予定になかった図録を買いました。
日本代表や世界の受賞者の作品は、作品づくりに刺激になるものがありそうです。
アートになった猫たち展 (日比谷図書文化館)
特別展 アートになった猫たち展~今も昔もねこが好き~ | 特別展 | ミュージアム | 日比谷図書文化館 | 千代田区立図書館
浮世絵から2000年代の絵画まで、とにかく猫が描かれた作品が大集合しています。
猫が写っていれば基本何でもOK。そんな面白い切り口です。
図書館の中でこういう展示回が開かれるのも珍しいと思います。 しかも入場料300円。
レオナールフジタら有名どころや、夏目漱石『吾輩は猫である』の初版本もありました。
一口に猫がテーマといっても様々な切り口があり、
「猫でわかる〇〇」のようなハウツー的な浮世絵や、
表現規制を猫の擬人化絵で切り抜けたりと、様々な角度からのアプローチが楽しかったです。
人間を直接書くと政治批判になってしまうので、
猫に見立てて「これは猫なんです!」と規制を言い逃れするというわけですね。
今にも通じるような要素があって面白かったです。
アナログイラスト展(浅草橋HI-CONDITION)
数名の絵師さんの知人による、合同のアナログイラスト展示会です。
先日アップしたGUMIのバラード曲「farewell」でイラストを描いていただいた
夏芽ももさんら5人が参加していました。
2018年に引き続きゴールデンウィークの開催。
ちょっとおしゃれなギャラリーを借りていて、直接絵師さんとお話ができる環境で
アットホームで素敵な雰囲気がありました。
絵師さんがその場でイラストを執筆するライブペインティング企画もあり大盛況でした。
なかなか絵師さんの手元をじっくり見る機会は少ないので貴重な時間を過ごせました。
絵師100人展 (秋葉原UDX)
最後は秋葉原 UDX開催の、こちらもゴールデンウィーク恒例企画です。
令和の時代に入ったこともあり、今回は「時代」がテーマでした。
絵師100人展は基本的に女の子の人物イラスト縛りなので、
時計やレトロな女学生みたいなモチーフが多かった気がします。
きらびやかなイラストが多数あって目の保養になりましたね 。
先の「メアリー・エインズワース浮世絵コレクション」や他の浮世絵展でも
美人画を多く見たので『なるほどこれが現代の絵師か…』となりました。
美術展を見て改めて思うこと
様々な美術展に参加すると「歴史は繰り返す」という言葉を思い出します。
過去の歴史に学ぶことで、自分の創作者としての姿勢を振り返ったり
今後の流れもなんとなく予想・仮説を立てていけるのかなと思いました。
今年上半期に行ってはないので本文には書かなかったのですが、
印刷博物館の「天文学と印刷」の展示では、
中世に天文学(天動説から地動説に変わるころ)という先進的なテーマに挑んだ学者が、
当時出たばかりの活版印刷を自分の学説を広めるために積極的に使った、
中には出版業と天文学者を掛け持ちしていた人もいたという話がありました。
でもこれってよく考えると、
「今の時代に新しいIT技術をSNSで広める」ってことと何も変わらないのではないでしょうか。
どちらも最新の技術に関わる人が、最新のメディアを使いこなすという構図に思えたからです。
このように、未来を知るのに過去を学ぶのはとても大事なことなのかなと思います。
今後もこのような機会があれば…というか森美術館の年間パスポート取ってしまったので
定期的にいろんな世界に触れつつ、創作に親しんでいこうと思っています。
著者「アンメルツP」について
アンメルツP(gcmstyle / 安溶二)
ボカロP。鏡音リン・レンなどのVOCALOID(広義)を歌わせたオリジナル曲・カバー曲を2008年から作り続けています。代表作にゲーム『プロジェクトセカイ』収録の高難易度曲「人生」、著書に『ボカロビギナーズ!ボカロでDTM入門 第二版』(インプレス)など。
音楽ジャンルに関係なく、キャラクター性を活かしたボカロ曲を制作しています。
楽曲ストリーミング配信、カラオケ配信(JOYSOUND/DAM)多数。