「プレバト」俳句コーナーに学ぶ、クリエイターに大事な4つの創作意識
目次
はじめに
こんにちは、ボカロPのアンメルツPと申します。
今回は、テレビ番組「プレバト!!」にクリエイターの創作との向き合い方を学んでみようという
テーマでお話します。
プレバトとは、MBS・TBS系列で木曜の夜7時からやっている、
芸能人が俳句や水彩画などの芸術・創作を行い、才能があるかないかをプロが査定する番組です。
その中でも私は俳句のコーナーがとても好きで、
この番組の影響で、自分で俳句を詠むようになったほどです。
その理由のひとつとして、俳句コーナーの添削をやっている夏井いつき先生から
創作に対する真摯な姿勢が番組を通して思いが伝わってきて、
とても刺激を受けていることが挙げられます。
私はボカロPとしての音楽活動をはじめ、動画やWebサイト制作、あるいはクイズの作問など、
さまざまなジャンルの創作を楽しんでいるのですが、
この番組で学んだことが、俳句だけでなく他のジャンルの創作にも幅広く活かせると思っています。
そこで、今回は同番組の俳句コーナーから、
ミュージシャン(ボカロP)や同人作家、YouTuberなど幅広く応用が効きそうな
クリエイターへの創作への向き合い方に参考となる、印象的なシーンや発言をいくつか紹介していきます。
今回取り上げるシーンは4点です。
なお、番組における細かいセリフのやり取りは、
プロキオンさんの「プレバト!!で芸能人が詠んだ俳句を徹底紹介するブログ」を参考にさせていただきました。
アーカイブとして非常に活用させて頂いております。
自分の体験したことを表現する
最初のテーマは「自分の体験したことを表現する」です。
2019年7月25日に放送された「プレバト!!」の炎帝戦というタイトル戦の決勝で、
Kis-My-Ft2の千賀さんが詠んだ句「ギムレット風死する夜に鳴る淡海」が
全体の8位(最下位)になってしまったというエピソードがありました。
千賀さんご本人は、「ギムレット」というカクテルの名前がかっこいいイメージで、
キリのような突き刺すようなお酒を、琵琶湖を見ながら吞むというイメージで詠んだそうです。
しかし、これは梅沢さんに「情報を詰めすぎ」と指摘され、
さらに同じグループの北山さんから「千賀さんはそもそも酒が飲めない」ことを暴露されてしまいます。
そこで本人は「想像100%で書いた」と白状したのですが、それに対して夏井先生は、
「自分が体験していないことを憧れだけで書くと絶対に見破られます、俳句はそういう文芸です」という旨を
添削を入れて発言されました。
「自分の体験したことを表現する」ことは、どんなジャンルでも重要だなと感じた次第です。
自分が体験したことのないものを想像だけで補うのは大変です。
もちろん私自身、自分が直接体験したことのない歌詞や俳句を作ることは多々ありますが、
それこそ資料を調べたりして十分に裏を取りつつ自分の経験に落とし込まないと
なかなかリアルなものはできないと日々実感しています。
歴史モノやファンタジー要素など、自分自身が直接は体験できない作品であっても、
物語で表現したい事のエッセンスをたどると、現実にリンクする要素がどこかで必ず入ります。
例えば、これから作りたい物語に「頭のいい人」を登場させたいなら、
歴史上の人物や他の創作における「頭のいい人」のエピソードをうまく仕入れないと、
作者よりも頭のいい人物はなかなか描きにくいことでしょう。
音楽においても、メロディや編曲のパターンなど、いろいろな楽曲に普段から接していないと、
新しいものはなかなか自分の中から生まれません。
よく「アイデアは既存のものの組み合わせでしかない」という話はよく聞きますが、
音楽なりゲームなり映画なりインプットしたことが、
自分の計算によって混ぜ合わってアウトプットとして出てくるというのは、
実際に作る側に回ってみてやってみると納得できる話かと思います。
表現を行うためには、色々な作品に触れて自分の体験を豊かにすることが重要で、
そのために色々なことに興味のアンテナを伸ばしておく好奇心は
クリエイターとして忘れないようにしたい次第です。
好き嫌いと才能・技術のあるなしは別
2点目は、「好き嫌いと、才能や技術のあるなしは全く別の要素だ」ということです。
2018年8月30日に放送された「夏休みの終わり」というお題で、
才能アリ1位を取った劇作家の渡辺えりさんが詠んだ、
俳句の五・七・五の常識を覆した自由律の句が衝撃的でした。
「生きる人も死んだ人も宿題かかえ走る江ノ電」
これには番組に出演していたフルーツポンチの村上さんや東国原さんら「名人」も戸惑いつつ、
村上さんは「自分が知っている『俳句』とは全然違うけれど、ちゃんと詩になっている」という
評価をされていました。
夏井先生は、自由律俳句には下記の2点の難しさがある点を解説しつつ、
・内容に合ったリズムを探す
・季語に変わる詩の核をゼロから作らなければいけない
この句には詩の核がしっかりとあり、どこにも「夕暮れ」と書いないけど
夕暮れの光景が浮かんできたとおっしゃいます。
実際私も聴いた瞬間に、夕暮れの江ノ電の光景を、天国から見下ろしている人物の映像が浮かびました。
続いて夏井先生は、
「私はこういう句が好きか嫌いかと言われるとそんなに好きではございませんが、
才能があるものはあるとはっきり言わないといけない」とおっしゃいました。
私も、本当にその通りだと思います。
例えば子供の落書きを考えると、そこに技術があるかないかって言われれば、「ない」方に属するわけです。
でも、その絵を好きだと思うか嫌いだと思うかはまったく別ですよね。
※「子供が描いた」という「作品外の情報」が入ることで、作品の好き嫌いの評価が変わってくる現象は
また別モノなので、こちらの記事でいろいろ考察しています。
テストは、勉強したら点を取れるようになり、
スポーツやゲームは、技術を高めたら勝てるようになりますが、
音楽や文学などの「芸術」は、単純な技術の高さでは評価が決まらないという違いがあります。
創作者が技術を勉強したとしても
好きか嫌いかは、その作品を見た人・聴いた人の判断に委ねられるのが、
芸術のつらいところでもあるし、面白いところ、醍醐味でもあると感じています。
素人だけど、聴く人が好きになってくれる曲を作れるかもという期待感もありますしね。
とはいえ、技術も勉強すれば「打率」を上げることにつながるとは思いますので
私は音楽理論などはしっかりインプットしていった方がいいと思う派です。
また、この「好き嫌い/技術のあるなし」は、見る側の人、評論する側にとっても
なるべく切り離すことを意識した方がいいのかなと思います。
「この曲は政治的なメッセージが共感できなくてあまり好きじゃないけど、
曲の展開やそれを伝える歌唱力はすごいのでハマる人もいるだろう」
のように、うまく構成する要素を細かく切り分けて評論とか鑑賞をしていくと
人生をより豊かに過ごせる気がします。
直球も投げられないのに変化球を投げるな
3点目は、「直球も投げられないのに変化球を投げるな」ということです。
2019年8月22日放送のプレバト、テーマ「夏の終わり・夕方の空港」の回。
5人が参加したこちらの回で、「歓声に浸る間なく別れ烏」という句を詠んで
4位の才能ナシになってしまったのが、Kis-My-Ft2の二階堂さんです。
(キスマイメンバーの下手なシーンばかり取り上げていますが、いい句も多数ありますので念のため…)
キスマイの初めての単独ツアーが始まるぞ、歓声に浸ってる場合じゃないぞ、
ここから巣立っていこうという句らしいんですが、
梅沢さんには「そんな意味には伝わらない」と言われ、
村上さんは「五・七・五なのに、7が6になっているのが、何でそんなことしちゃったんだろう」と指摘します。
それに対し、本人は投げやりな感じで
「ちょっとした変化球入れるじゃん」と発言します。
しかしこれは村上さんが即座に「直球も投げれないのに、変化球を投げるのはもうやめろ」とキレます。
夏井先生も「説明を聞いて憮然とした」とおっしゃって、
結果としてこの句は、真ん中の6音が跡形もなくなるような添削をされてしまいました。
この「直球も投げれないのに、変化球を投げるな」は、
本当にごもっともだと思います(ブーメランを投げながら)。
例としてピカソの『ゲルニカ』が思い浮かびましたが、
ピカソという画家はかなり長生きして、何十年という芸術活動の間に作風をどんどん変えていって、
50代のときにたどり着いたのが『ゲルニカ』のような作風でした。
これは、今までの作風の積み重ねがあったからこそ到達した場所なのだろうと思います。
この番組で「才能ナシ」になる人は、なにか俳句に限らず、
あまり技術は上手くないのに、変に自分流の思い込みテクニックを使ってしまって、
才能ナシに沈んでしまうという傾向があるように思います。
また才能ナシの人ほど「すごく自信があります」って言いながら散っていくイメージです。
(もうブーメラン何本投げてるかわからないけど)
作品制作の過程で新しい技術を覚えていく向上心は必要ではありますが、
初心者は変に気取らずにまずはベーシックな技術だけでしっかりした表現はできるんだから、
まずは身の丈にあった技術レベルで、一歩ずつ進んでいくのがいいのかなと思います。
俳句だったら、まずは上五に「季語+や」を入れて、残りを七五で整えるという基本をやってから、
そこから型を崩していったり、季語を2つ入れる季重なりのチャレンジをしていくなどですね。
一方、作曲の技術というと「コード進行」があります。
非常に奥深い理論であり、
代理コードや転調・移調などを活用した複雑なコード進行の曲を作ることもできます。
ただ、これも最初は基本のスリーコード(I/IV/V)だけを使ったり、
王道進行(IV→V→III→VI)や小室進行(VI→IV→V→I)など、有名と呼ばれているコード進行を
まるまる真似するだけで、ある程度の曲は作れると思うんですね。
自分の技術力が他の人に比べてどれぐらいか客観的に把握をしていくのは大事です。
言うだけなら簡単なものの、とても難しいことではありますが…。
実際私も、数年前の作品をあとから見返すとなかなか至らない面を見つけることが多いです。
他の作品の技術の観察をしたり(音楽だったら耳コピ、絵だったら模写など)、
時には自分の作品を他人に見てもらってアドバイスを受けたりすると、
自分では気づかなかった色々な発見を得られることもあります。
プロでも作品解釈が分かれるんだから、万人が満足する表現はない
最後の4つ目は、「プロでも作品解釈が分かれるんだから、万人が満足する表現は存在しない」ということです。
2つ目の「好き嫌い」の部分とも関係する部分ですが、
それが如実に現れたプレバトの回があるので紹介します。
それが2019年4月18日の「自動ドア」がお題の回で、
普段プレバトに出演している芸能人と、
愛媛の松山東高校の俳句部、文芸俳句部の高校生が対決するという企画でした。
対決というからには、どっちが勝ったのかを判定する審査員が必要です。
今回は、夏井先生よりも更に偉い立場で、俳句界の重鎮とも言われているお三方が、
芸能人と高校生の句を、それぞれ10点満点をつけて優劣を判定しました。
ところが、これがかなり審査員によって句の評価が分かれます。
3対0のストレートとなったのは5試合中1試合だけで、残り4試合はすべて評価が分かれ
中には10対9、10対9、8対10となって引き分けになるケースも多くありました。
番組では、松山東高校の高校生、山内さんが「減便の航路の島々を躑躅(つつじ)」という句を読みます。
これに対し審査員の2人が9点をつけ、
対戦相手のキスマイ千賀さんの「『運命』のドア叩く音春疾風」という句の方を10点として評価したのに対し、
残ったひとりは10対8で高校生に軍配をあげました。
高校生の句に9点をつけた宇多先生は、
「『減便の 航路の島々を躑躅』の『を』は『の』にした方がいいのでは?
『の』を重ねることで、躑躅にスポットライトが当たる」
と主張しました。
それに対し、この句に10点をつけた高野先生は、
「私はこの『を』はOKだと思います。
この『を』こそが、躑躅の存在を強調している」
というふうに主張し、真っ向対立します。
そして、たった1文字の助詞に関する議論について高野先生は
「この議論、一晩中やってもいい」と言い放ちます。
このやりとりがとても軽妙で、ひとしきり笑った記憶があるのですが、
ここで重要なのは、「プロでも作品に対して良い・悪いの解釈は分かれる」という事実です。
芸術において「誰にとっても100点満点の作品」は存在しません。
よく同人界隈でも、ある人にとってのツボが、別のある人にとっては地雷、というのを見かけますが、
人によっても生きてきたバックグラウンドや考え方が全然違うので、
何を気に入るかは、本当に人それぞれの部分はあります。
(私はプレバトは好きですが、シュレッダーで梅沢名人の俳句を切り刻むのは解釈違いです、といった具合)
投稿サイトでは、どうしても個人の好き嫌いの集合体が「ブックマークの数」「マイリスト率」のように
具体的な数字になって出てしまうのですが、本来は一人ひとりが、
1万再生なら1万人が作品を見て各自で解釈を巡らせているはずなんです。
もちろん伸びたり売れていくためには、
自分がやりたいことと他人が満足する表現の円の真ん中を狙い、
最大公約数に近づけることはある程度必要です。
ただ、完全に趣味レベルで創作を楽しむのであれば
「万人が満足する表現は存在しないから、自分のやりたいことをやろう」という
結論になりますね。
あと、私が企画でボカロPと絵師さんのマッチングを多くやってきて実感しているのは、
「どんな曲であっても、それを好きな絵師さんは一定数必ず見つかる」ということです。
「人によっても生きてきたバックグラウンドや考え方が全然違う」とは先ほど申し上げましたが、
日本には1億、世界には70億の人間がいますから、
共通点がひとつもない人間というのはあり得ないだろうと思います。
そういった考えがマッチする人々に、
自分の作品をいかにして届けるかを模索することも
クリエイターが各自考えていかなければならない部分かと思います。
「他人を意識して作品を作ろう」もOK、「自分がとことんやりたい方向を突き詰める」もOK。
そういった活動方針を自分自身の中でちゃんと整理できていれば、
自然にどういった作品を手がけていこうというのも決まってくるかもしれません。
おわりに
そんなわけで、以上4点を見てまいりました。
他にもこの番組にはさまざまな創作への向き合い方に参考になるエピソードがありますので、
また機会があればこのような記事を書きたいと思います。
クリエイターに対していろんな学びがある番組ですので
気が向いた時に見てみるのもいかがでしょうか。
「プレバト!!」の夏井先生は、ラジオの帯番組「夏井いつきの一句一遊」も地方局でやっています。
関東地方では放送していないので、関東圏の人はradikoプレミアムで聴くことになるのですが、
1日10分の放送の間に数十もの句がすごい勢いで流される番組です。
句の合間に夏井先生が様々なコメントをしていきますので、ぜひ興味ある人は聴いてみてください。
また、夏井先生は最近YouTubeでも、俳句の基礎知識や視聴者が気になっていることを解説しています。
ご子息の家藤正人(ウェンズデー正人)さんとの軽妙なやり取りが楽しいので、
そちらも気になったらご覧ください。
著者「アンメルツP」について
アンメルツP(gcmstyle / 安溶二)
ボカロP。鏡音リン・レンなどのVOCALOID(広義)を歌わせたオリジナル曲・カバー曲を2008年から作り続けています。代表作にゲーム『プロジェクトセカイ』収録の高難易度曲「人生」、著書に『ボカロビギナーズ!ボカロでDTM入門 第二版』(インプレス)など。
音楽ジャンルに関係なく、キャラクター性を活かしたボカロ曲を制作しています。
楽曲ストリーミング配信、カラオケ配信(JOYSOUND/DAM)多数。