2019年10月~2020年 アンメルツPが選ぶ鏡音リン・レン曲10選
目次
はじめに
2020年はすでにお知らせした通り、鏡音メドレー動画「RINLENMANIA」はお休みしました。
一方、今年はRINLENMANIAスタッフのレキさんと原さんが新しい企画を立ち上げてくださいました。
それが「ぼくらの鏡音旅行記2020」というものです。
これは、2019年10月以降の鏡音曲の二次創作を、Twitterで指定のハッシュタグつけて投稿しようという
楽曲二次創作を支援する企画です。
イラストや漫画・小説はもちろんのこと、「熱 い 推 し 語 り」(いわゆる楽曲レビュー的なもの)に
関しても対象としてくださっています。
今回の文章は、この企画への参加を兼ねて、対象期間中に投稿された特に好きな鏡音曲10曲をチョイスして
「熱い推し語り」として投稿した、それぞれ500文字前後の文章となります。
知名度は全く関係ありません。数千再生前後のものが多くなっているでしょうか。
「ぼくらの鏡音旅行記2020」企画自体は、2021年1月10日まで開催しておりますので、
最近の鏡音曲でオススメのものがありましたら、ぜひイラストや語りなどで参加を検討してみてください。
自薦曲もOKなので、ライナーノーツ的なものでも大丈夫だそうです。
それではお楽しみください。
順番もこの通りに連続再生していくといい感じになると思います。
七色のオルゴール/ナナミP
https://www.nicovideo.jp/watch/sm37450078
歌:鏡音リン・レン
『gLoR10us』に提供いただいた「we:am」は他の方に語って欲しいなあという思いを込めて
この曲をチョイスしました。
ナナミさんのオリジナルストーリーに沿った一作として、氏の音楽全体の世界観の
イントロダクションとなるような位置づけの物語曲となっております。
ストーリーを語る鏡音の声の綺麗さとそれを引き立てるメロディ、
特にハーモニーの美しさが際立つ一曲で、
暖かく優しい音楽に涙が溢れそうになります。
物語がここから溢れてくるような、ナナミさんを象徴する一曲だと思います。
6分と最近の曲としては長めですが、様々な物語の断片がまとまっており、
これをきっかけに他の作品を辿りたくなるような魅力に溢れた一作だと思います。
現実に少し疲れたとき、それを忘れて、ただ音楽に浸っていたい、
絵本のような世界観を童心に帰ってワクワクしながら味わいたい、
そんな時に思い出して聴きたくなる一曲です。
サイドワインダー/ナナホシ管弦楽団
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36898171
歌:鏡音レン
なんかこういう数百文字の御託を垂れるのは野暮なんでとにかく聴いて感じろよ!
とでも言わんばかりのひたすらカッコいい曲で最高です。
砂漠の毒蛇であるところのサイドワインダーですが、楽曲はそのイメージで、
荒野を力強く駆け巡るライダーとその愛機をモチーフにしています。
かっこいい曲にもいろいろ種類はあるんですが、この曲は現代風というよりは、
ちょっと懐かしさを覚えるようなかっこよさがあります。
まさに「ロックンロール」とか「西部劇」を思うような、レンに「漢」、
男が惚れるような男を感じるような骨太な一曲となっています。
ちょっとキザでワイルドな歌詞、レンの声の裏返りやグロウルもとてもキャッチーですね。
また、イメージ通りに音も結構乾いた感じの印象も受けました。
ギターやドラムのフレーズの暴れる様子に、砂漠を疾走する姿がオーバーラップしてくるようで、
歌い方も含めて本当にカッコイイの一言です。
灯火/kazuyana
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35895047
歌:鏡音レン
ストレートな90~2000年代王道メロコアですがそれがいいんです。
「いまの現実と、夢や理想のギャップを嘆きながら、それでも信じて走る」という曲は多くあり、
それをなかなか自分ごととして届ける歌詞ってなかなか作るのは大変ですが、
この曲にはメッセージをリアルに感じられる力があります。
具体的に様々な言葉を交えて自問自答を繰り返しながら高みを目指していく主人公の姿には、
作者自身に投げられたメッセージだったり、実感でもある部分も出ているのかなと思います。
サビの疾走感はもちろん、Bメロの先頭のフレーズ(「何回も」「簡単な」)の節回しや、
少しグロウルが混ざったレンの声などもそれらを盛り上げています。
腹の底から「自分のやりたいことは何だろう?」って突き詰めたくなることは誰にでもあり、
そうした経験をしたことがある方に、これらの組み合わせは強烈に響きます。
いわば160kmの直球のような曲ですね。
kazuyanaさんの曲には、どの曲にもこのような「熱さ」を勝手に感じています。
自分で道を切り開いていくんだという想いが伝わっていくのが、私が好きなところなのかなと思います。
Zoo/Noz.
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35855709
歌:鏡音リン コーラス:Noz.
最近のNoz.さんの楽曲は、ローテンポだけど聴いていて踊れる曲が多い印象ですが、この曲もその中のひとつです。
恐らく現代社会を動物園に例えて皮肉・批判的にメッセージを投げかけていると思われる歌詞が特徴。
人間って結局悪意を孕んでいる動物というか、どうしても弱いところや無知な所があるのですが、
それがそのままナイフになって無意識のままに他の人を傷つけてしまうのがネットが発達した現代だと思います。
その中で生きていくしかないのですが、ストレートに不満をぶちまけるというよりは、
この作品は少し斜に構えて、アイロニカルなやり方で素晴らしい音楽に昇華していると感じました。
サビの終わりのやり方も、凡人が同じことをやると少しダサくなってしまうのですが、
ここでははっきり曲を締める要素として機能しています。
鏡音リンの歌い方の鋭さ(あくまで声自体はそれほどシャープではない)もこの曲のメッセージを歌うのに
よく合っていると思います。
Noz.さん本人が入ったコーラスも、主役である鏡音リンを引き立てつつ存在感があります。
お洒落さとかっこよさと毒をとても高いレベルで並列させている作品です。
この時代に生きていると嫌なことも沢山ありますが、ガツンと一日の最初や仕事前に聴いて
社会に立ち向かっていきたいですね。
STAY FOREVER/ただいまP
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36265697
歌:鏡音リン
この曲は完全に私の趣味全開で紹介したい曲ですが、
こういう曲を紹介するのが「熱 い 推 し 語 り」の趣旨だと思うのでどんどん語っています。
まさに中期TK、ザ・90年代中盤のサウンドが実に心地良い、自分の好きな要素が全て入っている一曲です。
このベルやピアノのバッキングのフレーズ、サビ最初の高音英語フレーズ、5~6小節目の突き上げるような展開
など…全てが90年代なんですよ。
そして極めつけは3分54秒(Return to new love)からのメロディとコードの展開!!
このオケの小さな変化にグッと心を持っていかれます。
ただいまPは、バラードや昭和歌謡風の曲もそうなんですけど、本当にメロディを大切にしている方だな
というのが伝わっていきます。
歌詞も街の風景を俯瞰しつつ、自分の心理に重ねていく感じが実に日本的ポップスの王道だと思います。
ボカロ曲の魅力のひとつって、2020年代に「○○年代の新曲」が出てくることだと思っています。
決して若者文化じゃなく、誰もが自分に必要な曲を作って、誰もが自分の好きなものを受け取れる世界。
それを体現するような作品だと思います。
あと動画のリンのリボンピコピコが可愛い。
さよならヒグラシ/ラムネP
https://www.nicovideo.jp/watch/sm35819650
歌:鏡音リン
この方の久々の新作はトピックでしたね。
ラムネPの9年ぶりの新曲です。
長くボカロに触れているとこういうこともあるんだなと思います。
発表は2019年の10月で、夏の終わりをイメージさせる曲です。
誰もが持っている、夏が終わるときに感じる一種の寂しさ、原風景を思い出させるものになっています。
氏はやはり「Dog Day Afternoon」での夏の真っ只中のイメージが強いので、
この曲はそこからの時間経過(曲の間での時間経過と、氏の活動を重ねる)のようにも解釈はできます。
リンの暖かくて伸びやかな声は健在です。
またそれを生かすメロディも素敵で、例えばAメロの2小節目、ここで一気に引き込まれます。
サビの三段構えに伸びていく様子も、なにか過ぎ去る夏を惜しむ心理も感じます。
曲はミドルテンポのポップスとなっています。
爽やかなピアノやギターなども切なさを感じられるもので、特にピアノはリンに寄り添うような形で
印象的なフレーズを随所に奏でています。
夏の終わり+ピアノは最強ですね。
今後も少しずつでいいので、氏の曲が聞けるのを楽しみにしています。
あなたの命は美しい/シルミシロン
https://www.nicovideo.jp/watch/sm37736501
歌:鏡音リン
この曲を発見して最初に聴いた感想は「とんでもないものに出会ってしまった…」というものでした。
曲調としてはシンプルかつ力強いバラードロックというところですが、特徴はやはりこの歌詞ですね。
いきなり出会い頭にナイフで刺されてしまったような展開にどうすればいいのか分からなくなって、
処理しきれない量の巨大な感情が襲いかかってきました。
正直荒削りではあるんですけれども、それが削られないままいきなりぶつかったら
凄いエネルギーが生じるんだなという感じです。
この曲は、やはり人ではないボカロが歌うからより響くのかなと思います。
そしてリンの声も非常に力強く鬼気迫るものまであり、曲のメッセージをダイレクトに届けています。
正直自分の中で解釈がうまくできない歌詞なのですが、とにかくそのメッセージがスルー出来ずに
ぐるぐる頭の中で回ってしまい、「美しさってなんだろう?」ということを
哲学したくなるような物に仕上がっています。
皆さんもこの機会に、この曲の持つクソデカ感情について考えてみてください。
アンノウン/Reimei
https://www.nicovideo.jp/watch/sm37094698
歌:鏡音レン
Reimei(坂下澪明)さんのボカロデビュー作。
一聴して引き込まれるのは、イントロの非常に重厚な雰囲気と、モノクロの動画のとてつもなく重い世界観。
「社会派ボーカロイド」タグがついている通り、戦争の苛烈さをテーマにした非常にシリアスな曲です。
この曲のレンは当事者というよりは語り部視点に近く、時間経過や空間を壮大なスケールで映し出したこの歌詞は
とてもデビュー作とは思えない雰囲気を醸し出しています。
サウンドとしてはバラードに近いロック曲で、重厚なドラム隊、特にバスドラムの響きは
まるで銃声のようにも響いてきます。
それに載せられる、長い譜割りで響くレンの低~中音。
腹の底から響くような声は、このシリアスな物語を聴く人の心の底まで届けていきます。
氏はこれまでに3曲発表していますが、鏡音曲はこれが唯一です。
他の2作も重厚な世界に最近の流行りが組み合わせて完成度が高いですが、自分自身はこれが一番好きです。
動画の雰囲気も含めて聴くのにエネルギーが必要なのですが、
この方は絶対に数年後メジャーになっていると思います。
星降る丘の鏡/nox’n’nix(作詞曲:乃楠依生、編曲:Nagiha)
https://www.nicovideo.jp/watch/sm37635513
歌:鏡音リン・レン
これはとにかく物語が素晴らしいですね。
鏡音初期に多かった「鏡設定」に近いイメージで、離れ離れのリンとレンが互いに
今もう一人の自分を求めて出会うことを目指すストーリーが展開されています。
最近は曲全体の長さが短くなる傾向の中、この曲は最近としては珍しく7分を超える大作です。
その中でどんどん曲調が変化してくるので飽きない…というよりは、
ストーリーの展開に編曲が寄り添ってるというそういったイメージを受けました。
これは編曲のNagihaさんの技術だと思います。
最初はワルツを思わせる三拍子から、四拍子も混ぜつつ曲調もだんだん激しくなり、
最後にはメタルやプログレに近くなります。
この長い導入で少しずつ盛り上げていき、後半のクライマックスで一気に加速するのが、
これまでの二人の想いの爆発とシンクロしていて素晴らしいです。
動画は歌詞も表示されていない一枚絵(概要欄に歌詞あり)ですが、
この歌詞の世界観のおかげで一枚の絵からも色々想像が広がります。
とても聴き応えのある物語曲です。
長い夜をこえたなら/雲丹
https://www.nicovideo.jp/watch/sm36861918
歌:鏡音レン
激しい曲調や厭世的な曲、明るい鏡音イメージソングなど様々な楽曲を作られる雲丹さんですが、
この曲はピアノの美しいバラード曲となっています。
5月に発表された曲ということもあり、今の時代に即した雰囲気を感じられます。
歌詞も、今の時代を苦しみながら生き抜く人への共感というか、
等身大に寄り添いながら語りかけてくるようなレンの優しさが伝わってくるようなものとなっています。
声も少し穏やかに調整されており、聴いた人により癒しを与えるものです。
5分ある曲で最初のうちは静かに展開してくるのですが、
3分40秒過ぎから一転してオケが激しくなり、
ドラマチックなバラードに変貌。穏やかな声質はある程度保ったまま、
高音を叫んでいるフレーズがとても切なく伝わってきます。
一曲の中で、レンの持っている優しさや切なさといった部分を、
低音から高音まで煮詰めて贅沢に味わえる一品となっております。
まだまだ夜明けは遠そうな雰囲気を感じていますが、それまではこの曲を聴きながら
この曲の持つ優しさに助けられつつ、いつか夜明けが来ることを願っております。
おわりに
2020年は数百曲の鏡音リン・レンで投稿された新曲を聴き、
そのうち200曲前後をYouTubeの再生リストでおすすめとして紹介しております。
よろしければこちらの方もYouTube Musicなどで連続再生してお楽しみいただければと思います。
ボカロPおすすめ鏡音リン・レン曲 2019-2020 (Season 13) – YouTube
https://www.youtube.com/playlist?list=PLrliUMHjssZ4HblXfgZaBzOqfcvu83ZFz
ボカロPおすすめ鏡音リン・レン曲 2020-2021 (Season 14) – YouTube
https://www.youtube.com/playlist?list=PLrliUMHjssZ6E4JTlTZP-k_ZtI6o0k0_4
著者「アンメルツP」について
アンメルツP(gcmstyle / 安溶二)
ボカロP。鏡音リン・レンなどのVOCALOID(広義)を歌わせたオリジナル曲・カバー曲を2008年から作り続けています。代表作にゲーム『プロジェクトセカイ』収録の高難易度曲「人生」、著書に『ボカロビギナーズ!ボカロでDTM入門 第二版』(インプレス)など。
音楽ジャンルに関係なく、キャラクター性を活かしたボカロ曲を制作しています。
楽曲ストリーミング配信、カラオケ配信(JOYSOUND/DAM)多数。