同人誌原稿のサイズの考え方について(塗り足し、背幅、解像度etc)
目次
はじめに
こんにちは、ボカロPのアンメルツPと申します。
今回は、同人誌の原稿のサイズに関するお話をさせていただきます。
同人誌を作る際は、Web上のドット数(px、ピクセル)と、
印刷した本の幅や高さなどの物理的なサイズ(mm、ミリメートル)の
二つの「サイズ」を考える必要があります。
また、単純にA4/B5/A5の紙のサイズに加えて、塗り足しや背幅、解像度(dpi)も考える必要があります。
ボカロ関係の同人誌や技術書を書くたびに
表紙や本文のサイズを確認しに印刷所のサイトなどを探すのですが、
自分用のまとめとして、ブログ記事に残したほうがいいかと思い書きました。
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「サイズ」に関する基本的な考え方
原稿を制作する際に意識する「サイズ」には二つの単位があります。
Photoshopなどの制作ツール上で考えるときのドット数(px、ピクセル)と
印刷した本という形になっての幅や高さなどの物理的なサイズ(mm、ミリメートル)です。
Webサイトに公開することだけを考えるならば基本的に前者だけ意識すればいいですが、
印刷する時には後者も併せて考えていく必要があります。
用紙のサイズについて(A4/A5/B5)
まずは後者の物理的なサイズの話から書いていくことにします。
同人誌の(物理的な)原稿サイズとしてよく使うのはB5とA5、それにA4でしょうか。
フルカラーのイラスト集で、特に大きいサイズで出したい時はA4などを選ぶ方もいらっしゃいますが
漫画・イラスト集の同人誌だと、B5のサイズがおそらく最も一般的かと思います。
私の場合、2015年頃まではB5サイズでよく原稿を作っていました(同人版『ボカロビギナーズ!』など)。
『VST Lovers』以降の最近の本は、基本的にはひとまわり小さいA5サイズで作っています。
どうしても文字が中心(横書き)となるハウツー本や技術書の場合、
B5だと1行に書く文字数が結構多くなって、読みづらいところもあるという判断です。
そして、それぞれの規格における1ページの仕上がりサイズは以下の通りです。
A4…幅210mm×高さ297mm
B5…幅182mm×高さ257mm
A5…幅148mm×高さ210mm
A4サイズを真ん中で二等分して(mmの小数点以下はうまいこと処理)縦横反転したものがA5サイズとなります。
これはAn→An+1、またBn→Bn+1でも同様で、ひとつ数字が上がると面積は半分になっています。
A0が1平方メートル、B0が1.5平方メートルのサイズとなるように規格が決められています。
原稿を何mmで作るか――塗り足しについて
では、このサイズで単純に原稿を作ればいいのかと言うと実はそうではありません。
どの印刷所に入稿する際も、「塗り足し」を考える必要があります。
製本の時に、上下左右の部分を裁断する時にズレが発生するかもしれないので、
その分も考えて、紙のサイズに少し余裕をもたせた状態で入稿してくださいということですね。
これを忘れると…まあ普通は印刷所のチェックで弾かれてしまうのが普通ですが、
表紙の端っこに何も塗られていない白い部分が発生するなどの悲惨な事態が起こります。
ということで、どこの印刷所でも塗り足しを取るように言われます。
印刷所によっても多少異なりますが、多くの印刷所では、塗り足しは上下左右3mmのところが多いです。
私がよく使うグラフィックさんや大陽出版さんはどちらも3mmです。
ですが印刷所によっては5mmなどを採用しているところもあるので、
制作にあたっては各印刷所のWebサイトの原稿の作り方のページ、
また印刷所のテンプレートが用意されている場合はそれも事前に確認しておきましょう。
塗り足しが3mmの場合、本文の原稿サイズは
A4…幅216mm×高さ303mm
B5…幅188mm×高さ263mm
A5…幅154mm×高さ216mm
という原稿サイズになります。
上下と左右に3mmずつですから、幅と高さはどちらもプラス6mmということになりますね。
本文レイアウトにおける注意事項
一応注意ですが、原稿サイズいっぱいまで文字を配置してしまうと、
たとえ文字が切れていなくても非常に読みづらい本になってしまうので気をつけましょう。
内側に15mm~20mmぐらいの余白を設けて、そこに文字を配置するのが一般的でしょうか。
漫画の場合は完全に余白の内側にコマをレイアウトするパターンと、
そこをはみ出して塗り足し部分まで背景を足したりするコマという2パターンがあると思いますが、
後者の場合でも、重要なセリフやキーアイテムのレイアウトには気を遣う必要があるかと思います。
なお、漫画原稿の制作についてより詳しくは、こちらの記事などが参考になります。
マンガ原稿制作の基本 “新規作成と書き出し #6” by ClipStudioOfficial – CLIP STUDIO TIPS
https://tips.clip-studio.com/ja-jp/articles/733
技術書や評論本、小説など文字メインの本の制作や、雑誌みたいなレイアウトを作りたいときは、
AdobeのInDesignが緻密なレイアウトができて便利です。
左ページと右ページで雛形となるレイアウトを分けたり、
章ごとに作ったファイルをあとから合体して自動的にページ(ノンブル)をつけたりなど、
本の制作にぜひ活かしたい機能が満載です。
Adobe CCを契約している方は使ってみる価値はあります。
PhotoshopやIllustratorだけでは割高なAdobe CCの月額費用の元を取ることにチャレンジしてみましょう。
文字メインの本の中でもそこまで高度な機能を必要としない場合は、
Microsoft Wordだけでも全然本文のレイアウトは作ることができますね。
ページ設定で、「用紙サイズ」の部分に「塗り足しを加えたサイズ」を指定するのがポイントです。
これで入稿するためにPDF変換を行う際、塗り足し分が加えられたサイズになります。
表紙のサイズ(背表紙込み)
表紙のサイズの考え方も、大まかには本文と変わりはないのですが、
表紙の場合、背表紙を考えないといけないのが違っているところです。
表紙の入稿にあたっては、
表表紙(表1)+背表紙+裏表紙(表4)がひとつにつながった
PSDファイルなどで入稿するのが一般的かと思います。
ページ数が少なく、簡単にホッチキスで止める「中綴じ」の本というか小冊子(パンフレット)を
作る際は背表紙は考えなくていいのですが、
それ以外の、「無線綴じ」と呼ばれる一般的な同人誌を作る場合は背表紙のことを考える必要が出てきます。
まずは背表紙以外のサイズを考えてみます。
本文と同じく3mmの塗り足しを考えるわけですが、少し複雑になります。
背表紙の両端に表表紙と裏表紙にあたる部分が来ますが、
上下それぞれ3mm、高さとしては合計6mmの塗り足しが発生します。
一方で、左右の幅について考えると、
背表紙の右側に来る部分は、右端の3mmの塗り足しだけを、
背表紙の左側は、左端の3mmの塗り足しだけを考えればいいことになり、
結果的には、「つながった原稿全体で幅6mmの塗り足し」ということになります。
単純な本文2枚ぶんの幅にならないことに注意が必要ですね。
塗り足しが3mmの場合、具体的には以下のような数字になります。
A4…幅(426mm+背幅)×高さ303mm
B5…幅(370mm+背幅)×高さ263mm
A5…幅(302mm+背幅)×高さ216mm
なお、表表紙と裏表紙のどちらが左でどちらが右に来るかは、
背表紙を本の右側か左側、どちら側に持っていきたいかという「綴じ方向」によります。
漫画や小説、イラスト集の同人誌の場合は右綴じ(表表紙が左側、裏表紙が右側)、
評論・技術書など横書きの本は左綴じ(表表紙が右側、裏表紙が左側)というケースが多いでしょうか。
この綴じ方向ですが、最初にこの部分を決めておいて、
表紙イラストを絵師さんやデザイナーに依頼する場合は
できるだけ初期の段階で、仕様として共有しておく必要があります。
思い込みのまま進行すると、後から大変なことになるかもしれないので気をつけてください。
さて肝心の背表紙を何ミリで作ればいいかは、各印刷所によっても微妙に違うので
お願いする印刷所のWebサイトを見るのが一番だと思います。
多くの印刷所のサイトには、背幅を自動的に計算できたり、計算できる方法を示しています。
ここではお世話になっている大陽出版さん、グラフィックさんのサイトのものを貼っておきます。
背幅の計算方法(大陽出版)
https://www.taiyoushuppan.co.jp/doujin/howto/thickness.php
同人誌表紙での背幅の計算と設定方法|同人誌印刷・オリジナルグッズ印刷のコミグラ
https://www.graphic.jp/comic/dojinshi/column/cover_tips
細かな違いはあれど、基本的な考えは「ページ数×紙の厚さ」をベースに背幅が決まります。
技術書や漫画同人誌の場合は、本文は上質紙90kgというのが多いでしょうか。
太陽出版さんのサイトで、「上質紙90kg」を指定し、
表紙込み100ページの本を作ろうとしてフォームに値を入れると、その背幅は「5.76mm」と計算されます。
なので、小数点以下は切り上げて6mmで作っておけば無難でしょう。
結果として、この本をB5で作るならば、
幅=370mm+背幅6mmで376mm、高さ=263mmで作ればいいことになります。
原稿を何ピクセルで作るかについて
記事の冒頭で、ここで意識する「サイズ」には二つの単位があると書きました。
Photoshopなどの制作ツール上で考えるときのドット数(px、ピクセル)と
印刷した本という形になっての幅や高さなどの物理的なサイズ(mm、ミリメートル)です。
ここまでずっと後者の話をしてきましたので、
ここからは前者の「何ピクセルで作るか」という話をしたいと思います。
何ピクセルで作るかは、ある長さの中にどれだけドットが詰め込まれているかという
「解像度」が深く関係しています。
解像度には様々な単位がありますが、印刷で主に使用する単位は「dpi(ピクセル/インチ)」です。
dots per inchの略で、1インチ(=25.4mm)にどれだけドットが敷き詰められているかという意味です。
一般的には、以下の解像度以上であることが印刷には望ましいとされています。
カラー原稿の場合=350dpi(300dpiを指定している印刷所もあるかも)
モノクロ原稿の場合=600dpi
すなわち、25.4mmにつき350pxなり600pxなりの大きさで作ればいいことになります。
これは電卓やスマホアプリなどを用意すれば、手元でもかんたんに計算できることになりますね。
カラー原稿の場合:長さ(mm)÷25.4×350
モノクロ原稿の場合:長さ(mm)÷25.4×600
試しに、先ほどのB5の表紙(フルカラー)、背幅6ミリのケースを考えてみると。
幅=376mm÷25.4×350=5181px
高さ=263mm÷25.4×350=3624px
で作ればいいことになります。
なお、Photoshopなどのソフトは、最初に原稿サイズを指定する際に、解像度を設定できます。
幅と高さを作りたい原稿の物理的なサイズにして、解像度を「350ピクセル/インチ」に指定することで、
幅が5181px・高さが3624pxと、机上の計算と一致する原稿を作ることができます。
アンソロジーなど、他人の原稿のチェックの際は、
Photoshopの場合は原稿を開いた状態で「イメージ」>「画像解像度」を選ぶと
幅と高さと解像度が示されますので、事前の指定と一致しているかを確認するといいでしょう。
技術書・小説のモノクロ原稿の考え方
技術書や小説など、InDesignやWordで本文を作って最終的にPDFにする場合、
・画像を用意する場合にはなるべく解像度の高いものを用意する
・PDFに出力する際に、画像の解像度を落とさないオプションに設定する
ということを考えていれば、まあ特に大きな問題は起きないでしょう。
もちろん600dpi以上の画像を用意できれば理想的ですが、
幅10cmの画像なら2362px必要となり、それだけでフルHDの幅を超えています。
技術書でスクリーンショットを貼りたい場合など、基準に達してないことは多いので
そこはなるべくあまり気にせず「なるべく大きいもの」というざっくり認識でいいかと思います。
ただ、誰かに挿絵イラストを依頼したい場合などには600dpiを意識するようにしましょう。
おわりに
印刷所によって微妙に塗り足しサイズや背幅の決め方などが違うこともありますので、
印刷所は早めに決め打ちして、余裕を持って原稿を作りましょうというのが結論ですかね…。
後から納期のより遅い印刷所に変えたりした時など、
焦っているときに原稿サイズに関する事故が起こりやすいです。
CDの入稿なども含めて、サイズ指定に関しては本当に毎回間違えやすいところです。
私も過去にいろいろ失敗などもあり、
ここをチェックすることの大事さを実感しているので今回記事を書いてみました。
何かミスをしていないかと思った時は、
原稿サイズに関する考え方に立ち戻って、一つずつ確認していくことが大事なのかなと思います。
著者「アンメルツP」について
アンメルツP(gcmstyle / 安溶二)
ボカロP。鏡音リン・レンなどのVOCALOID(広義)を歌わせたオリジナル曲・カバー曲を2008年から作り続けています。代表作にゲーム『プロジェクトセカイ』収録の高難易度曲「人生」、著書に『ボカロビギナーズ!ボカロでDTM入門 第二版』(インプレス)など。
音楽ジャンルに関係なく、キャラクター性を活かしたボカロ曲を制作しています。
楽曲ストリーミング配信、カラオケ配信(JOYSOUND/DAM)多数。